海外の純文学でとくに評価が高いのがフランツ・カフカの『変身』
しかし、多くの方は「有名で名前は知ってるけど古臭いし読む機会がない。昔の小説は表現が難しそう・・・」と感じているのはないでしょうか?
ですが、カフカの『変身』は今こそ読むべき小説だと自分は考えています。
今回は、作者であるフランツ・カフカも紹介しながらこの本を読み解き、そして分かりやすく簡単なあらすじとともに解説していこうと思います。
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作者について
1883年、フランツ・カフカはオーストリア=ハンガリー帝国領プラハ(現在のチェコ)で、ユダヤ人の家庭に生まれました。
プラハ大学に入学する際、青年時代から哲学者のニーチェに心酔していたため哲学専攻を希望していましたが、おじに「失業者志望」と言われ、法学を専攻します。大学を卒業するための試験勉強に苦しむかたわら、小説『ある戦いの記録』を執筆します(これは最終的に未完成のままです)。
大学を卒業後、保険局員として働きながら数々の名作を残しますが、1917年に結核を患ってしまいます。
治療を施しながら、仕事、小説の執筆に取り組みますが、1924年6月3日に40歳の若さで亡くなります。
なお、『変身』以外で有名な作品である『審判』、『城』、『失踪者』は実は友人のマックス・ブロードがカフカの死後に公刊し世界で評価をうけた作品でした。
朝、目覚めたら虫になっていた
これは不幸な家族とさらに不幸な男の物語。ある朝、セールスマンの主人公グレゴール・ザムザは目を覚ますと、自分自身がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変化していることに気づきました。「いきなり!?」と思ってしまうかもしれませんが、その何の音沙汰もなく”いきなり虫になって”目覚めるのがこの小説の肝でもあります。
虫になってしまった衝撃的な描写に思わず戦々恐々としてしまいますよね…。
さて、その「虫」を見た母・父・妹はもう大変です。母は逃げだし、父は虫の姿になって部屋からでてきた息子をまるで彼が害虫であるかのように部屋に押し戻しました。
彼はその場面をこのように表現しています。
この後、部屋に半ば監禁状態にされたグレゴールは妹の世話をうけるようになります。
いつの間にか人間の言葉を話せなくなり、体も思うように動かせなくなったグレゴール、そしてなんの不幸か、虫に変化してしまった兄を世話しなければならなくなった妹。
家族の生活費はグレゴールの稼ぎに頼っていたため、老いた身体でまた働くようになった父、喘息持であるにも関わらずパートタイムに行かなければならなくなった母。
グレゴールの変身により、家族は大きく変化してしまいます。
ここでポイントなのですが、実はグレゴールは仕事を一生懸命にして一家を養っていました。家では、女中(今でいうメイドさん)も雇っていましたし、好立地で立派な家に住んでいました。グレゴールはとても家族想いで、妹が入りたいと思っていた音楽学校への学費も秘密にして貯めていました。グレゴールはいいやつなんです。
主人公に対する家族の変化
お世話をする妹は、最初は恐る恐るそして丁寧にグレゴールを扱いました。グレゴールもそれにこたえるよう家族に迷惑をかけないためにひっそりと部屋のなかで生活しました。
しかし、時の経過とは恐ろしいものです。
グレゴールが虫になってしまったという変化を落ち着いて理解し、受け入れ、冷静になると、そこにはただただ困窮する家族の姿があったのです。
人間は、自らが困っている時、なかなか他者に対して気を遣うことはできません。
この物語にでてくる家族も同じでした。妹や家族の兄への世話はだんだんと雑になり、その不満を人間の言葉で言えないグレゴールの間には少しずつはっきりとした溝ができていきました。
ついには父は怒りにまかせグレゴールにりんごをぶつけ、また一方で、彼は家族に対する怒りを積もらせていきます。
すべての不幸の原因とは…
家族全体に少しずつ亀裂がうまれてきたころに、大きな事件が起きました。
ある日、家族は生活費を稼ぐために住居の一室を三人の男に貸し出します。
一家は豪華な食事を用意したり、様々なことを奉仕したりとお客様である彼らに従事しました。そして彼らの食後、グレゴールの妹が男たちのリクエストを受けバイオリンを披露することになりました。
事件が起きたのはその時でした。
――なんとバイオリンの音色につられたグレゴールが部屋から出てきて、その姿を男たちに見られてしまったのです。
男たちは面白がって音楽に興じている大きな虫(その時のグレゴールの大きさは人間の3分の1くらいだったと推測されます)を見ていました。が、父はグレゴールから目を離させるために男たちを部屋へ押し戻そうとしました。それが男たちを不快にさせ、彼らは怒り、そして、部屋代や食事代も払わず、さらには損害賠償をすると言い出します。
悪態をついて部屋に戻る男たち。
どうしたものかと残された家族。
そして、腐ったりんごを背中に埋め込んだままの弱々しいグレゴール。
そんな場に、このような疑問が生まれました。
やがて、妹はこのように結論付けました。そして、両親にこう言いました。
妹は泣き出し、父は「あいつの言葉がわかったのなら」と困り、母はどうすることもできませんでした。
妹は泣きながら続けます。
自身への不甲斐なさ、家族に対する不憫な思い、或いはどうしようもない運命を前に佇むグレゴール。彼は妹のその言葉を聞き、弱った身体を回転させ部屋に戻ろうとしました。
しかし、もはやそれさえも今の家族にとっては、害虫がなにかよからぬことをしようとしているようにしか思えなくなっていました。
グレゴールが身体を引きずりなんとか部屋に戻ったあと、妹は即座にドアを閉じ、外から鍵をかけるのでした。
そして、暗い部屋の中でグレゴールは、腐ったリンゴが体の中で埋まって炎症している痛みが引いていくのを感じながら、孤独に息絶えました。
「変身」の解釈
エッセンスのみを抜粋・要約してきました。
カフカの『変身』は現代でも通ずる話ではないでしょうか。
家族のだれかが何かしらの理由で引きこもり(虫)になってしまうと、最初は皆が心配したり嘆くのだと思います。しかし時間が経ちそれが当然のこととなると、この一家のように関係性が変化していくのかもしれません。
最後は、「一家が不幸なのは虫(グレゴール)のせい」と結論付けられ終わっています。
しかし虫になる前のグレゴールは家族のために働き、養い、愛していた妹が音楽学校へいく学費を貯めていました。その旨をクリスマスに打ち明ける気でいました。
それなのに、ある朝、なぜか虫になっていたのです。しかし、それは彼のせいではありません。どうしようもない理不尽が、堅実に生きてきた彼に、幸せな一家に、突然、偶然にも降りかかって――しかもグレゴールは自分の意思や考えを主張できず、ただ家族に疎まれて――しまったのです。
それはきっと、現実でも形を変えて起こりえることだと思います。現代社会にも確かに存在する誰の力も及ばぬ事象を、カフカは毒虫に『変身』するという表現で表したのだと筆者は考えます。
本編は短く30分~1時間ほどで読めるのでぜひ手に取ってみてください。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
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※フランツカフカ「変身」の原作は1974年に著作権が切れており、こちらの本文は『青空文庫』の著作権フリーのものを使用しています。
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